
Microsoft AI Tour 産業別セッションレポート【政府・公共機関/教育/医療】〜生成 AI が実現し得る新しい社会のかたち〜
2025 年 3 月 27 日、昨年に続き、Microsoft AI Tour が東京ビッグサイトで開催されました。この 1 年を振り返っても AI 技術の進化はめざましく、本イベントでも多くの先進事例が紹介されました。「ビジョンをインパクトに変える。」の通り、AI によるイノベーションがあらゆる業界で成果をあげていることが実感できるイベントとなりました。
本稿では、基調講演のサマリーに加えて、政府・公共機関/教育カテゴリのセッションおよび 医療分野としてConnection Hub のレポートをお届けします。セキュリティや信頼性といった課題を乗り越えて、それぞれのカテゴリで AI 活用が進んでいる様子が伝わる内容となっています。
AI Tour 全般及び基調講演の紹介はビジネス全般へ
【政府・公共機関業界向け】 オープニング基調講演:
日本の AI トップランナーによるトーク セッション
オープニング基調講演では、CEOのサティア・ナデラに続き、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂美樹が登壇し、先進的な生成 AI 活用を進める企業・自治体のパネリストとディスカッションを行いました。

東京都 副知事の宮坂 学氏は冒頭で、「AI は行政におけるゲームチェンジャーになる」と断言しました。宮坂氏は、サティア・ナデラの講演を聞いて、行政の役割と「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というマイクロソフトのミッションが似ていると感じたと語りました。「行政はすべての人のためにあります。特に生きづらさを抱えている人たちに AI の奇跡を届けたい」と述べ、AI の公共的な価値を強調しました。
具体的な取り組みとして、宮坂氏は AI を活用した都民の声の大規模収集・分析事例を紹介しました。「2 万件以上集まった意見を AI で分類し、業務を効率化。プロンプトを公開することで透明性を確保している」と説明し、公共機関ならではの活用方法を示しました。また、東京都内 62 区市町村が共同利用できる AI 開発環境を Azure 上に内製で構築し、最近稼働し始めたことを報告しました。市町村がバラバラでサービスをつくるのは非効率的であるとし、「ノウハウを横展開可能な、公共財のような AI を目指す」と目標を語りました。
第一生命株式会社 代表取締役社長の隅野 俊亮氏が、顧客対応や感情分析を行う「デジタルバディ」AI アバターを紹介しました。また、ソフトバンク株式会社 専務執行役員の藤長 国浩氏は、顧客ごとに異なる仕様書を理解する AI エージェントの開発や、提案依頼書の要約による業務効率化の実践例を紹介しました。

津坂は最後に、日本のデータセンターへの 4400 億円の投資、リスキリング支援、AI 研究拠点「Microsoft Research Asia-Tokyo」の設立、AI とセキュリティ人材教育のための「Cyber Smart AI プログラム」の提供開始を発表し、「皆さまの Copilot として、皆さまの成長をサポートし、日本の成長に貢献し続けたい」と述べました。
この基調講演のトークセッションでは、マイクロソフトは AI 時代においても創業以来の理念を堅持し、日本を支える企業・自治体と共に新しい時代のリーダーシップを発揮していく強い意志を示しました。多くの参加者に、AI イノベーションを加速するマイクロソフトへの期待を高めてもらえたのではないでしょうか。
基調講演の詳細レポートは、こちらのページでご確認いただけます。
Microsoft AI Tour オープニング&エンディング基調講演レポート
〜さあ、変革をはじめよう。ビジョンをインパクトに変える、AI 新時代の幕開け〜
【政府・公共機関向け】 ブレイクアウトセッション
「AI とデジタルガバメントの未来 〜AI セーフティ・インスティテュート様・デジタル庁様ご登壇~」
AI によるイノベーション実現に向けた AISI の取り組み
独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター長
AI セーフティ・インスティテュート副所長/事務局長
平本 健二 氏

平本氏は、日本政府の統合イノベーション戦略の一環として「AI 分野の競争力強化と安全・安心の確保」が重要であると述べました。AI のイノベーションを加速するためには、安全・安心の確保が不可欠であり、ガバナンスの仕組みや安全性の検討、偽・誤情報への対策、知的財産権の保護などに取り組むことが大切だと強調しました。
また、成長スピードの速い AI を使いこなすためには国際的な法規制やガイドラインの制定が重要であり、国際協調が欠かせない要素であると述べました。各国が 2030 年をターゲットとしてデジタル社会を実現することを目指している中で、AISI が設置された背景を説明しました。
AI の進化に柔軟に対応し、情報のハブとして機能する AISI
AISI の活動は、AI セーフティに関する調査と評価手法の検討、AI セーフティのハブとしての機能、他国の AI セーフティ関係機関との連携の三つの柱から成り立っています。平本氏は、AISI のスコープの柔軟性を強調し、目覚ましい AI の進化や異なる活用法やニーズに対応するために、AISI が各機関や業界のハブとして調整し、日本の AI 推進戦略を支援していることを示しました。
具体的な活動として、LLM の安全性確保に関する取り組みや、AI 事業者ガイドラインの策定、多言語・多文化環境における AI の評価などが紹介されました。平本氏は「私たちは情報のハブとして情報をどんどん出していきますので、その情報をもとに安全・安心なデータ活用、そしてイノベーションを起こしていただければ」と述べ、講演を締めくくりました。
デジタル庁における生成 AI 利活用推進の取り組みについて
デジタル庁
プロダクトマネージャー ユニット・リーダー 生成 AI 担当
西窪 健太 氏

西窪氏は、デジタル庁の役割として「中央省庁における利用推進」と「学習データの整備・提供」を挙げました。2023年度には、FIXER 社の生成 AI プラットフォーム「GaiXer/ガイザー」を用いた技術検証プロジェクトを紹介し、パブリックコメント対応の品質向上や調達仕様書のラベリングに効果があったと述べました。
2024年度には、ELYZA 社の生成 AI プラットフォーム「ELYZA App Platform」をデジタル庁の全職員向けに提供し、「生成 AI 利活用推進アンバサダー」育成の取り組みを実施しました。
職員が試行錯誤して内製する文化をつくることを目的とし、DX に向けた意識づけが重要であると強調しました。
2025年度には、自分たちでプラットフォームを構築し、職員が気軽に試行錯誤できる環境を整備する予定です。西窪氏は「トライ・アンド・エラーで感覚や審美眼を養ってもらう」と述べ、オープンな情報を共有してイノベーションが相互に加速するカルチャーづくりを進めていると説明しました。
最後に、西窪氏は東京都庁やマイクロソフトと連携したハッカソンを紹介し、業務実装に向けての弾みがついたと述べました。今後は地方自治体との連携強化にも取り組みたいと語り、セッションを終了しました。
国の AI 活用に対する熱意と確かな取り組みが伝わる内容であり、公共機関が AI 活用に踏み出すきっかけとなる素晴らしいセッションとなりました。
【教育機関向け】 Theater セッション :
「学校向け生成 AI を提供して見えた成果と課題」

会場内の Theater ブースでは、マイクロソフトやパートナー企業によるミニセミナーが行われ、テクニカルな内容から実践的なユースケース紹介まで多岐にわたり、各回盛況でした。
スタディポケット株式会社のエンジニアリングマネージャー 比下 大氏は、教育現場への生成 AI サービス導入における課題として、コンテンツフィルタリングや教員の生成 AI リテラシー不足、予算確保や活用指針の作成を挙げました。同社は生成 AI チャットサービス「スタディポケット」を開発し、現場での検証を進めています。
スタディポケットには教員向けと生徒向けの2種類があり、教員向け製品には校務効率化のためのプロンプトテンプレートが組み込まれ、生成 AI の知識がなくても簡単に活用できるよう設計されています。生徒向け製品では安全性が重視され、Azure OpenAI Service のコンテンツフィルタリング機能を活用して有害情報を遮断。「探究学習モード」では、質問に対して直接答えを出すのではなく、ヒントを提示して生徒自身が考える過程を支援します。

導入検証では、大阪教育大学との包括連携協定や、山口県および大阪府枚方市での検証事例が紹介されました。岐阜市の実証授業では、生徒アンケートで生成 AI の活用によって自分のペースで学習できるという回答が多く、満足度や利用率が高まりました。
一方で、いくつかの課題も明らかになりました。自分の課題や疑問点をうまく言語化できない生徒は生成 AI の活用が進みにくく、探究学習モードでは粘り強さの足りない生徒が対話を諦めてしまうケースもあります。また、文字情報で回答が行われるため、図形や視覚的な説明が必要な場面では理解度が低くなるという課題もあります。
比下氏はコスト面や AI モデルの選択肢の少なさ、コンテンツフィルタリングの過剰反応、簡単な計算ミスなどの課題について言及しながらも、「教育分野における生成 AI の活用はリスク以上に大きなメリットがある」とその可能性を強調してセッションを終了しました。
【医療業界向け】 Connection Hub レポート
AI と先端技術が実現する「より良いヘルスケアのかたち」
会場のほぼ中央には日本マイクロソフトの産業別 Connection Hub が設置され、産業ごとに生成 AI 活用のデモを展開。多くの来場者が足を止めて説明に聞き入っていました。

医療・ヘルスケア業界向けの Hub では、参加者から寄せられた現場の声に対し、マイクロソフトが取り組む、生成 AI をはじめとした先端技術で医療従事者の業務負担低減に貢献する想定シナリオが紹介され、多くの医療関係者が抱える課題の解決につながる可能性を感じさせる内容となりました。
<参考>マクロソフトが提供する医療業界/従事者向けご紹介動画
2.Azure AI Studio における医療 AI モデル
Healthcare AI Models in Azure AI Studio – Demo Video
3.Microsoft Fabric における医療データソリューションと会話型データ分析
Healthcare data solutions in Microsoft Fabric with Conversational data analytics – Demo Video
4. Copilot Studio における医療エージェントサービス
Healthcare agent service in Copilot Studio – Demo Video
ここまで見てきたとおり、Microsoft AI Tour では政府・公共機関、教育、医療の各分野で生成 AI の活用が進み、その可能性が確実に広がっていることが示されました。機密情報の取り扱いなど、生成 AI 活用においてクリアすべき課題が多い業界ではありますが、参加者は前向きなメッセージを得られたことでしょう。

今回の記事を通じて、生成 AI や先端技術が医療業界にもたらす可能性についてどのような検討が進められているのか、理解を深めていただけたかと思います。生成 AI 活用への次のステップとして、ぜひ下記の関連情報をご参照ください。