
Microsoft AI Tour 産業別セッションレポート【金融】〜思考の地平を拡大する AI エージェントによる金融業界の変革〜
2025 年 3 月 27 日、昨年に続き、Microsoft AI Tour が東京ビッグサイトで開催されました。この 1 年を振り返っても AI 技術の進化はめざましく、本イベントでも多くの先進事例が紹介されました。まさに「ビジョンをインパクトに変える。」というテーマどおり、AI によるイノベーションがあらゆる業界で成果をあげていることが実感できるイベントとなりました。
本稿では、第一生命株式会社が登壇しユースケースの紹介等が行われたオープニング基調講演のサマライズに加えて、Theaterで行われた金融業界向けミニセミナーレポートをお届けします。ロジカルな思考が必要とされる金融業界における AI エージェントの可能性や、人と AI との共生といった興味深いテーマでセッションが展開されていますので、ぜひご一読ください。
AI Tour 全般及び基調講演の紹介はビジネス全般へ
オープニング基調講演: 日本の AI トップランナーによるトーク セッション
オープニング基調講演では、CEO のサティア・ナデラに続き、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂 美樹が登壇し、先進的な生成 AI 活用を進める企業・自治体のパネリストとディスカッションを行いました。

- 第一生命株式会社
第一生命では過去 3 年間で約 150 件の AI 開発案件に取り組み、そのうち生成 AI に関するものは 50 件に及ぶ。具体例として「デジタルバディ」と呼ばれる AI アバターを紹介。顧客からの質問への対応、対話の記録・要約、感情分析など、営業職員の業務をサポートするシステムであり、来年 4 月に全国展開する予定。「AI がさまざまな分野で活躍することで際立たせられる、人にしか提供できない価値を大事にしたい」と述べました。

- ソフトバンク株式会社
ソフトバンクからは Microsoft 365 Copilot が約 2 万人、GitHub Copilot が約 8000 人に利用されていると説明。顧客ごとに異なる仕様書を理解する AI エージェントの開発や、難解な提案依頼書の要約による業務効率化などの実践例紹介がありました。
- 東京都
東京都からは、AI を活用した都民の声の大規模収集・分析事例を紹介。「 2 万件以上集まった意見を AI で分類し、業務を効率化。プロンプトを公開することで透明性を確保している」と公共機関ならではの活用方法を紹介しました。
津坂は最後に、日本のデータセンターへの 4400 億円の投資、リスキリング支援、AI 研究拠点「Microsoft Research Asia-Tokyo」の設立、AI とセキュリティ人材教育のための「Cyber Smart AI プログラム」の提供開始を発表し、「皆さまの Copilot として、皆さまの成長をサポートし、日本の成長に貢献し続けたい」と述べました。
この基調講演のトークセッションでは、マイクロソフトは AI 時代においても創業以来の理念を堅持し、日本を支える企業・自治体と共に新しい時代のリーダーシップを発揮していく強い意志を示しました。多くの参加者に、AI イノベーションを加速するマイクロソフトへの期待を高めてもらえたのではないでしょうか。

【金融業界向け】Theater セッション 「金融サービスにおける AI Agent」

会場内 2 ヶ 所に設置された Theater ブースでは、マイクロソフトやパートナー企業によるミニセミナーが行われました。その内容はテクニカルなものから実践的なユースケース紹介まで多岐にわたっており、各回盛況を呈していました。
金融業界向けのセッションとして、日本マイクロソフト株式会社 金融サービス事業本部 銀行証券本部の小田 裕也が登壇。AI エージェント、なかでも今後注目される「Reasoning モデル」が金融業界にもたらす変革について解説しました。
小田は冒頭で近年の生成 AI モデルの急速な進化に触れ、特に金融業界におけるブレイクスルーを起こし得るのが Reasoning モデルの登場であると語ります。
最新の Reasoning モデルは問題解決に向けて深い思考を担わせられるため、膨大なデータから重要
情報を発見したり、複雑なデータの関係性を把握したりといった場面で能力を発揮できます。そこが「ロジカル シンキングを必要とする金融業務と相性がいい」と小田は述べました。
これまでアンチ マネーロンダリングや株価予想などの分析や予測は過去データを学習させた機械学習モデルによって行われてきましたが、論拠に乏しい点や未曾有の状況に対応できない点がデメリットでした。
それが Reasoning モデルの登場により、定性的なデータも分析に加えられ、外部情報も取り入れられるため、より複雑な問題にも対応でき、論理的に説明可能な分析や予測を実現できるのです。
AI モデルの組み合わせにより、飛躍的な論理的思考の広がりが生み出せる

ここで具体的な活用例として、機械学習と Reasoning モデルを組み合わせた不正検知の例が挙げられました。このユースケースは、まずトランザクションのなかから機械学習モデルで不正の可能性がある取引をざっくりと抽出し、そこから軽量な Reasoning モデルで絞り込み、さらに高度なモデルで数件まで絞り込んだのちに、人間がチェックするという流れで不正検知が行われます。
「モデルの得意不得意を組み合わせることで分析の精度を上げられ、短時間のうちに及ぶ思考の距離や広さが、人間の思考と比べ物にならない」と小田。アンチ マネーロンダリングやローン申請プロセス、クレジットのスコアリングなどの分析で力を発揮するはず、とその効果を強調します。
ほかにも、さまざまな視座が必要とされる M & A 支援や、さまざまな情報を参照して答えを模索する保険のアンダーライティングなど、さまざまな領域での活用可能性を示した小田は、「金融の業務はさまざまなデータをインプットした論理的思考の塊ですので、ぜひ皆さんの業務に Reasoning モデルの活用をお考えいただければ」と呼びかけました。
最後に小田は、マイクロソフトのツール群を紹介。Microsoft Copilot Chat、プリセットで用意されている Agent、あるいは Microsoft Copilot Studio や Azure OpenAI Service での自作など、要件に応じて選択肢が用意されていることを示しました。
そして、Azure AI Foundry では 1800 以上のオープンソースの言語モデルやファイン チューニング対応など、エンタープライズ グレードのエージェントを効率よく構築できる環境が整っていると説明して、セッションを終了しました。
Microsoft AI Tour の金融業界向けセッションからは、ロジカルな思考や精緻な分析・予測が必要とされ、多くのデータをクロスオーバーしながらサービスを創造していく金融分野において、コンテキストを読み込み、自律的な思考ができるAI エージェントが大きな力を発揮する可能性が示されました。一方で、AI と人間の協業によってお互いの強みを発揮できる仕組みづくりの重要性も、参加者に共有されたのではないでしょうか。

今回の記事を通じて、生成AIや先端技術が金融業界にもたらす可能性についてどのような検討が進められているのか、理解を深めていただけたかと思います。生成AI活用への次のステップとして、ぜひ下記の関連情報をご参照ください。